オッサンズ・オブリージュ

文化とは次世代に向けた記録であり、愛の集積物である。

EU経済の総評-経済構造の基本となるサプライチェーン-

地域統合のモデルケースとしてのEU

EUというまとまりで1つのサプライチェーンが作られている。

加盟国のうち、1995年までの加盟国が冷戦期の西側諸国であったのに対し、

1995年以降の加盟国は、冷戦期の中立国か社会主義国である。(キプロスを除く)

※カッコ内の数字はEU内のGDPランキング

1967年の現加盟国
ドイツ[1]、フランス[3]、イタリア[4]、オランダ[6]、ルクセンブルク[7]、ベルギー[10]
1973年参加
イギリス[3]、デンマーク[12]、アイルランド[13]
1981年参加
ギリシャ[17]
1986年参加
スペイン[5]、ポルトガル[15]

1995年参加
スウェーデン[8]、オーストリア[11]、フィンランド[14]
2004年参加
ポーランド[9]、チェコ[16]、ハンガリー[19]、スロバキア[21]、スロベニア[24]、リトアニア[25]、ラトビア[26]、エストニア[27]、キプロス[28]
2007年参加
ルーマニア[18]、ブルガリア[22]
2013年参加
クロアチア[23]


冷戦期の西側諸国は、西欧に成立した欧州諸共同体(EC)を母体として西欧、英国、バルカン半島(ギリシャ : 1986年加盟)へと勢力圏を拡大していった。

冷戦終結時点では、EUの勢力圏は欧州圏をほぼ席巻しつつあったが、東欧や別同盟のEFTA諸国、オーストリアなどとの結びつきは弱いままだった。

しかし、1991年に冷戦が終結すると、1994年にはEFTAとの間に自由貿易協定が発効。

そして、旧東側諸国のEU加盟の動きが進んでいく。

冷戦後、真っ先にEUへの加盟を果たしたのは、共産化の影響が軽微だったオーストリアフィンランドスウェーデン

こうした当時の中立国は、1991年に冷戦が終結してから4年後の1995年にEU加盟を果たした。

次に、クロアチアスロベニアを含む旧ユーゴ国がボスニア紛争で争う中、いち早く民主的制度を整えたスロベニアが2004年にEU加盟を果たしている。

2004年は東欧の旧共産国バルト三国(リトアニアラトビアエストニア)、チェコハンガリーポーランドなどが続々とEU加盟を果たした年度でもある。

ロシアが焦りはじめ、EUへの対抗心を持ち始めたのもこの頃だろう。

続いて2007年には、西側諸国から距離のあるルーマニアブルガリアが加盟。2004年加盟のグループより遅いのは、民主化改革の遅れのため。

最も遅いグループは、旧ユーゴのEU加盟国であるクロアチアEU加盟に際して満たすべき基準の調整に時間がかかったため、2013年加盟と最も遅いグループに属している。


サプライチェーンの序列も、現加盟国に近いほど高いことが確認できる。

そもそも、世界的な知名度とシェアを持つ多国籍企業は、概ね西側に位置している。

ドイツ、フランス、イタリア、イギリス、スペイン、スウェーデンなどには、世界的な自動車メーカーの本社があり、高度にブランド化されているものが多い。

一見、目立たない北欧周辺のデンマークフィンランドもレゴ、ロイヤルコペンハーゲン、ノボノルディスク、バング&オルフセン、ノキアなどの世界的企業を持っている。

一方、西欧企業の進出で栄えたポーランドを始め、チェコハンガリーなど東欧諸国は、

安い労働力を背景に、主にドイツ企業の下請けに回ることで発展を遂げており、西欧諸国のような独自のブランドは持っていない。

持っていたとしても外資傘下のものがほとんどである。

2004年以降に加盟を果たした旧共産国は、1995年以前の加盟国とは、基礎研究と企業の底力に大きな隔たりがあるように思う。(1981年加盟のギリシャなど例外あり)

また、加盟が2007年まで遅れたハンガリー以東のルーマニアブルガリアも、欧州全体のサプライチェーンの一部に組み込まれており、

工業が発展していながら、機械製品がGDPに占める割合は他ヨーロッパ諸国に比べると小さい。

これは付加価値の低い原料に近い製品の製造を担っているということであり、サプライチェーンのより最初の方を任されているということ。

そして現在、最も遅い2013年に加盟を果たしたクロアチアは、船舶以外には強い産業を持たず、自動車産業も未発展状態。人口の少なさはあれど、外資の進出もまだ本格化していない。

つまり、EUに加盟した順番にドイツを中心としたサプライチェーンに組み込まれていくのであり、

加盟が遅いほど、ドイツやフランスから距離が離れるほど、付加価値の小さい序盤の製造工程を担っていくことになる。(ギリシャは1981年と加盟の時期は早いにも関わらず、工業化はEU内で最も遅い部類であり、例外的である。)



さて、欧州連合は、戦後初の地域統合であり、その後に作られた地域統合EUへの対抗として作られていった。

だとすれば、EU地域統合のモデルケースであり、日本が所属する東アジア地域包括的経済連携(RCEP)も含め、

世界の地域統合は、今後、EUで起きた現象をたどる可能性が高い。

今回の調査で分かったことは、EUでは国境を超えたサプライチェーンが構築されたということだ。

加盟国は、国が持つ人材のレベル、治安、市場規模、巨大市場との近さなどの条件に合わせて、各産業ごとに地域全体の製品製造工程に組み込まれていく。

この国境を超えたサプライチェーンの構築を進行させると、同時にある現象を伴わせざるをえない。

それは、域内雇用の自由化である。

これまで、外国人が国境の外にある外国で就職しようとなると、煩わしい手続きや差別待遇などが発生し、重い足かせとなっていた。

それが地域統合で結びついた国同士では、なくなっていく。

現在、欧州委員会EUの域内雇用に対して次のような要項を市民の権利として認めているらしい。

1、EUに所属する別の加盟国で自由に職を求める権利
2、別のEU加盟国で就労許可証なしに職に就く権利
3、就業が決まった国に就業目的で居住する権利
4、雇用が終了した後も居住を認められる権利
5、給与、税金、福利厚生などにおいて、現地国の労働者と平等の労働条件を受ける権利

もちろん、EUの成立はローマ帝国に起源があるので、EU域内の国民には共有できるアイデンティティがある。

だからこその政策とも考えられなくもないが、

共通のアイデンティティを持たない南アメリカ地域統合でも域内パスポートの作成、就労の自由化が定められており、政策的にEUの後追いをしている。

つまり、関税撤廃による経済統合を進める以上、就労の自由化は避けられないトレンドであり、

加盟国は域内に属する別の加盟国の市民を「同じ地域統合の一員」として待遇的に平等に扱わなければならないということだ。

これは、長州藩薩摩藩土佐藩、越前藩・・・江戸幕府が一つの日本として統合した過程と酷似しており、国家の生成プロセスに他ならない。

我々が住む日本もまたこの運命からは逃れ得ず、藩から国へ、国から地域統合へと更なる拡大を遂げようとしているようだ。

白人国家の集合であるEUで人種混合が起こっているかは、我々には見分けにくい。

だけど、低級人材の補充としてやってくるイスラム圏やアフリカ圏からの移民の姿をみれば、

地域統合が民族の保守よりも経済合理性を重視していることは明らかである。


域内経済について

域内経済の構造は、西側の先進工業国を中心としたサプライチェーンが基盤。

先進工業国、市場の拠点、そうした場所で作られた設計を元に、東欧の後発加盟国に部品製造の発注が降ろされていく。

産業ごとにそれぞれの結びつきがあるらしく、例えば、テレビでは欧州で作られるテレビの大多数がポーランド製だという情報も目にした。

これは、設計は先進国だが、製造は域内の途上国というパターンである。(ポーランドは脱途上国済みなので引き合いに出すのは悪いが。)

また、全ての加盟国がサプライチェーンに組み込まれているわけではないらしい。

人口が小さく役割を果たすことが難しいマルタ、キプロス、加盟から時間が経っていないクロアチア、そしてギリシャなどの国は、域内の自由移動の恩恵を受けて主に観光業で食いつないでいる構造が伺えた。

農産力では、フランス、イタリア、スペインなどの高い農産力を持つ国を抱えており、世界最高峰の農産力を持つアメリカ、インド、ナイジェリア、ブラジルなどの国とも歴史的な結びつきを持つため、飢えることはない。

また加盟が有力視されているウクライナは、フランスには劣るものの高い穀物輸出を誇り、歴史的なヨーロッパの穀倉地帯として今後の発展に向けて高いポテンシャルを持っている。
林業や漁業では、EU政策により持続可能な発展が志向されており、収穫量に制限を受けながらも安定した成績を確認できた。

工業セクターは、産業革命震源地であり、米国、日本と並び世界屈指の工業規模が確認出来る。

それも技術やインフラの優位のみならず、特許やブランドなど、世界の工業の元締めはEUと米国(日本)にあるといって差し支えないのではないかと思う。

中国も急速な工業化を遂げたとされるが、中国というモールの中で生産を行っているのは外資系企業か、外資系企業の援助を受けた合弁企業である。

やはり、工業の本場であるEUや米国とは、発展の基礎から雲泥の差があると思う。これからも新しい技術や知識は欧米(日本)から生まれるだろうし、基礎力を持たないそれ以外の地域は模倣にとどまる傾向が続くだろう。

また、他の地域統合と最も大きな違い、及び優位性も、この工業力に集約されると思う。

科学文明を育んだ歴史背景と安定した情勢、高度なインフラからEU国民の知的水準は高く、知識集約産業を支える自力がある。

また、どの国も伝統を持つ農業や漁業の分野でも、テクノロジーの有無によって大きな差が生じる。

この点は、

南アジア地域協力連合(SAARC) 貧困国の集合体

ラテンアメリカ・カリブ諸国共同体、アフリカ連合 資源依存国及び荒廃国の集合体

ユーラシア連合 エネルギー資源依存国の集まり

こうした統合体らと一線を画している。

EUが持つ工業力は、

NAFTA[アメリカ、カナダ、メキシコ]

・東アジア地域包括的経済連携(RCEP) [日中韓ASEAN、オーストラリア、ニュージーランド、(インド)]

に匹敵し、分野によっては最上位を占めるものも少なくないだろう。

また資源は、国内の高い人件費で集約的に採掘を行うよりも、途上国からの安い製品を取り寄せることが主流のようだった。

全体的に、さすが地域統合のモデルケースというだけあって、地域統合体としての完成度は最高レベルに高いのではないかと思う。


イギリスのEU離脱について

EUの勢力圏は1967年の結成以降、拡大を続けている。

しかし、1973年、1981年、1986年、1995年、2004年、2007年、2013年と拡大が続く中、2016年に1973年加盟のイギリスが脱退の構えを見せ、これまでの一貫した拡大に終止符が打たれた。

地域統合の趨勢は、脱退に踏み切ったイギリスの今後の動向に掛かっているのではないか。

脱退がイギリス経済に打撃をもたらす結果になれば、EUのメンバーは、イギリスの失敗を教訓に、統合を支持する趨勢に向かうだろう。

しかし、反対にイギリスのEU脱退がイギリス経済に致命的な結果をもたらさなかった場合、

各メンバーは独自性を尊重する趨勢に傾き、離脱国が相次ぎ、最悪、地域統合は瓦解するかもしれない。


しかしながら、確実に言えることはある。

EU脱退は、域内市場とサプライチェーンを放棄することを意味するのだから、

イギリスの生命線である金融セクターや鉱業セクターは打撃を受ける。

これまでイギリスと取引を結んできた顧客は、関税の発生したイギリスから撤退し、

関税の必要がない別のEU諸国から産業に必要な資本・資源を調達するのであり、イギリスはこれまで当然のように受けてきた収益を失うことになる。

つまり人口6500万人に過ぎないイギリス経済にとって、今までの顧客を維持するには、地域統合による7億人超市場での無関税メリットは不可欠であり、イギリスに地域統合から独立するという選択肢はない。

つまり、イギリス経済、世界一の金融都市ロンドンの凋落を免れるには、遅かれ早かれ、EU再帰するか別の地域統合(例えばEFTA[スイス、リヒテンシュタインノルウェーアイスランド])に加わるしかない。

一度、地域統合の経済的な恩恵を受け取ってしまったイギリス経済は、もはや脱落なしに独立を掲げることはできない。

つまり、イギリスはいずれかの地域統合再帰する可能性が高く、

今回のイギリスのEU離脱が世界的な地域統合の趨勢を転換させるきっかけになるかといえば、ノーだと思うのが私の考えだ。

むしろイギリスの復帰を通して、今後の地域統合の重要性が更に高く認識される結果になるのではないか。


EUの拡大について

現状のEU諸国は、バルト3国、ポーランドハンガリースロバキアルーマニアを境に、

ウクライナを挟んで東のロシアブロック(ユーラシア連合)と接している。

このウクライナEU加盟をめぐり、水面下では協議が進んでおり、

2017年12月1日にウクライナ政府もEU加盟を問う国民投票を行う意思を表明したばかりである。(http://japanese.cri.cn/2021/2017/12/02/241s267548.htm)

ウクライナ国民がEU加盟を拒絶した場合、ウクライナは地理的に近いロシアのユーラシア連合に加わるしかない。

しかし、このユーラシア連合は資源依存国であるロシア、カザフスタン、腐敗した弱小工業国のベルラーシによる連合体であり、

ウクライナにとって魅力的な帰属先になるとは思えない。

逆にEUが持つ先進工業国の富と技術はウクライナにとって魅力的であり、加盟が実現すれば、10%に迫ろうとする失業率を出稼ぎで解消が図れるばかりか、EUの新国境として投資も期待できる。(ウクライナ企業がEU企業との競争に晒される面はあるが)

ウクライナ全体にとっては、ロシアブロックの一員としてEUと対峙するよりも、EUの一員としてのメリットを利用するほうが国益に叶うことは間違いないだろう。

しかしながら既にEUは西欧を始め北欧(ノルウェーEUとEFTAの自由貿易協定を発行済)バルト三国、東欧、南欧とヨーロッパ圏を包摂する勢いを見せており、

残るは東欧のロシア、ウクライナベラルーシモルドバ、安定化に遅れのある南欧の旧ユーゴ諸国(セルビアモンテネグロボスニア=ヘルツェゴビナマケドニアアルバニアコソボ)などであり、

ロシアとトルコの間に位置するジョージアアルメニアというアジア地域にまで拡大を進めている事実がある。

更に、欧州では、EUと並行して「地中海連合」という統合を進める勢力が存在している。

これは、地中海を囲む中東のエジプト、イスラエルパレスチナ、シリア、アフリカのモロッコチュニジア、アジアのトルコなどを含めた地中海諸国とEUとの間の統合を進める主張もあがるようになっており、

具体的な案は提出されていないものの、提唱者であるフランスのニコラ・サルコジは「(EUと)同じことを同じ目標と同じ手段で行う」と述べている。

この案は、中東諸国が持つエネルギー資源とフランスが持つ原子力技術の中東への輸出が狙いのようだが、

EUの拡大と地中海連合が実現した場合、ユーラシア大陸の西側に巨大な統一市場が出現する見込みとなり、

域内では工業力、資源、米国との貿易を通して食糧も自給できる見込みとなる。

この強力な統合体の登場は、域外国の焦りを引き起こすのに十分であり、世界的な地域統合の拡大を引き起こす動機となるだろう。


現在はその実現に向かって進んでいる以上、

日本も世界的なトレンドに巻き込まれる可能性は高く、地域統合の運命から逃れることは困難なようだ。