オッサンズ・オブリージュ

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南アジア地域協力連合(SAARC)の貿易構造 インド中心の地域ブロック

南アジア地域協力連合(SAARC)の加盟国は、南西アジアの8カ国からなります。

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つまり、インド、パキスタンバングラデシュスリランカ、ネパール、ブータン、モルティブ、アフガニスタンです。

SAARCは、1985年にSAARC憲章によって誕生しました。

EUやラテンアメリカ・カリブ諸国、ユーラシア連合とは異なり、域内の安全保障、政治的連帯などの政治的利益から発足した互助組織でしたが、

1995年のPTA、また2006年のSAFTAが締結されてからは、域内の自由貿易に向けて本格的な取り組みが行われています。

域内の総人口は、17億4906万人。これは世界人口の24%にあたります。

加盟国のGDPの合計は、2016年で2兆8966.5億ドル。

このSAFTAは、域内の関税を各国の状況に応じて段階的に下げていき、最終的には域内全体で5%以下まで落とす見込みです。

しかしながら、関税引き下げ後も、域内国が独自に設定する保護品目(センシティブリスト)が域内貿易を妨げました。

そこで2012年より域内国全体でセンシティブリストの数を削減する案が実行に移され、

域内貿易の改善に向けて努力が行われています。

とはいえ、現状の域内貿易は対世界貿易全体の5%程度とされ、

EUの56.3%、ASEANの23.4%、NAFTAの33.6%と比べても、域内貿易は少ないと言わざるをえません。

GDPは2016年の数字を採用。

域内貿易に関するデータ等は、城西国際大学の大西(神余) 崇子氏の研究論文「南アジア地域協力連合(SAARC)の発展、貿易、制度」を参考にさせていただきました。

1 インド(GDP : 2兆2564億ドル[世界第7位])

主要産業 : 農業、鉱業、工業、IT産業
輸出 : 石油製品、宝石類、機械機器、化学関連製品、繊維
輸入 : 原油・石油製品、宝石類、機械製品

BRICSの一角であるインドは、域内人口の75%、域内GDPの77%を占める中心的な存在です。
アフガニスタンを除く加盟国は、インドとは国境を接していますが、インド以外の国とは接していません。
「インド 対 各加盟国」の関係が作られやすいことも、SAARCの1つの特徴です。

パキスタンアフガニンスタン以外の国との貿易はどの国とも盛んで、
各国の域内貿易の大部分がインドとの間で行われています。

インドの産業は、世界第14位の工業生産国として知られ、二輪車市場では世界第1位。
自動車は、生え抜き企業の育成にも成功し、1994年には24.5万台に過ぎなかった自動車生産が、2011年には393万台で世界第6位にランクインしています。

重工業、重化学工業の成長も著しく、国内の油田から取れる石油から作られる石油製品は、国内需要を超えて海外にも輸出されています。

SAARC域内では文句なしの工業力NO.1。

最近はモディ政権の下で、原発施設の増設により電力供給を10倍規模に拡大する方針も打ち出しており、SAARCの中心になること間違いなしです。

また、IT産業は世界的な拠点として近年のインドの経済成長を牽引しています。

主に、先進国企業からのアウトソーシングソフトウェア産業を担っています。


域内貿易が盛んな国としては、輸出では、スリランカの30.0%、バングラデシュの27.3%、パキスタンの20.4%が挙げられます。
また輸入では、スリランカの24.7%、バングラデシュの18.2%、ネパールの15.9%となっています。

2 パキスタン(GDP : 2841.9億ドル[世界第42位])

主要産業 : 農業、繊維産業
輸出 : 繊維製品、農産品、食料品
輸入 : 石油製品、原油、機械類、農業・化学品、食料品、パーム油

10年前からGDPに占める工業の比率は20%で停滞しています。

輸出品目としては、米がトップの11.2%、ついで繊維製品が続きます。
また、中国の一帯一路政策への協力の打ち出しており、政策の拠点として鉄度・道路・港湾を整えるため、近年ではセメントや鉄鋼の生産が増えています。
インド対各加盟国に陥りやすいSAARC域内にあって、パキスタンアフガニスタンとの貿易が活発です。

輸出の7割は、アフガニスタンに向かいます。
しかしながら輸入の約9割はインドからとなっています。

1日2ドル未満で暮らす貧困層が国民の半数を超えています。


3 バングラデシュ(GDP : 2279.0億ドル[世界第46位])

主要産業 : 衣料品・縫製品、農業
輸出 : ニットウェア(47%)、既製品(36%)、革製品(4%)、ジュート製品、冷凍魚介類、石油
輸入 : 綿花、綿製品(15%)、鉱物・石油製品(12%)、機械設備(9%)、鉄鋼製品、機械機器、穀物類、食用油

ガンジス川の豊富な水資源から肥沃であり、米やジュートの生産に適しています。

人口の6割以上が農業に従事しており、米や繊維の原料となるジュート(黄麻・縞綱麻)の栽培が盛んです。

ジュートから生産される繊維産業が輸出の8割を占めていますが、慢性的な赤字財政に陥っています。

農業セクターは比較的安定的に成長する一方で、工業に課題が残ります。

現在は、産業の多角化および外国人投資の呼び込みに向けて、インフラ整備が急がれています。

2010年のSAARC域内貿易では、輸出の76.1%、輸入の88.2%がインド相手となっています。
その他の国とは、パキスタンへの輸出が16.4%、輸入が9.6%と高い数字になっています。


4 スリランカ(GDP : 826.2億ドル[世界第66位])

主要産業 : 農業(紅茶、ゴム、ココナッツ、米)、繊維業
輸出 : 工業製品(繊維・衣類製品)-77%、農業製品-22.6%、鉱物-0.3%
輸入 : 中間財(燃料・繊維関連)-50.9%、資本財-26.8%、消費財-22.3%

南アジアで最初に輸入代替制度を放棄した国だとされ、1977年に資本主義と自由主義経済を導入しました。
その結果、一人当たりのGDPは3,162ドルではあるものの、インドに比べて2倍、モルディブに次いで2位という
南アジア上位の経済国に発展しています。

SAFTAに先立つSAFPAの案もスリランカから出たことで知られています。

スリランカは、原油産出国ではないため、軽工業が主流となっています。

繊維業が全体の77%を占め、その他には主に紅茶や米などの農産品が輸出されています。

輸入は、繊維業の中間財が約半分、残りは一般機械や建設機械などの投資財および消費財となっています。

SAARCの域内貿易では、インドとの輸出が74.2%、輸入が91.2%と最も多く、

その他には、モルディブへの輸出が11.0%、パキスタンからの輸入が7.5%と高い数字になっています。


5 ネパール(GDP 211.5億ドル: [世界第106位])

主要産業 : 農林業、貿易、交通・通信業
輸出 : 工業製品、カーペット、食品
輸入 : 石油製品、鉄鋼製品、機械部品、金、輸送機械

中国のチベット自治区に接するネパールは、ヒマラヤ山脈の周辺部に国土を持ちます。
人口の80%が農業に従事する農業国でありGDPの約4割を農業に依存しています。
輸出品目としては、繊維産業とじゅうたんが7割を占める主力商品として知られています。
輸入品目としては、石油製品、金など。

域内での主要な貿易相手国としては、輸出の88.7%がインド、10.2%がバングラデシュとの間で行われています。
輸入では、99.2%がインドからとなっており、域内ではインドへの依存傾向が最も強い国となっています。

1日2ドル以下で暮らす貧困層が国民の7割を超えるとされ、基幹の農業も天候に左右されるため、大変不安定な社会構造となっています。


6 アフガニスタン(GDP : 188.9億ドル[世界第112位])

主要産業 : サービス業(51.3%)、農業(24.3%)、鉱工業・製造業(20.9%)
輸出 : じゅうたん、レーズン、ピスタチオ、甘草、羊毛、アーモンド、イチジク
輸入 : 石油、セメント、電化製品、小麦、機械類

ターリバーンとアメリカを中心とした多国籍軍との戦いによる灌漑設備や各種インフラの破壊が国民生活に甚大な悪影響を及ぼしています。
国民の3分の2は、1日2ドル以下で生活する貧困層だとされます。

産業は、農業と牧畜への依存度が高く、輸出品目には農産品や牧畜で得た羊毛、また羊毛を加工したじゅうたんなどの製品がみられます。
石油の採掘は2012年から中国資本によって開始されており、現状の石油製品は輸入に依存しています。

SAARC域内での貿易は、
輸出がパキスタンとの間で55.1%、インドとの間で44.2%になっています。
一方の輸入は、パキスタンから81.1%、インドから18.6%。

アフガニスタンは、SAARC加盟国の中では唯一例外的に、インド以外の国と最も貿易が盛んになっています。
それもパキスタンと国境を接する一方で、インドとは接していないためでしょう。

また北では、ユーラシア連合への加盟に前向きなタジキスタンや、将来的な候補国とされるトルクメニスタンと国境を接しています。

アフガニスタンは、SAARCの国境線を形成する重要拠点と言えるでしょう。



7 モルディブ(GDP : 33.8億ドル[世界第158位])

主要産業 : 漁業、観光
輸出 : 魚介類、水産加工物
輸入 : 石油製品、食料品、建設資材、輸送用機械、機械

観光業がGDPの3割を占めています。
水産加工物の輸出が、最大の輸出品目となっていますが、主食の穀物は輸入に依存しています。

SAARCの域内では、輸出の58.9%がインド、37%がスリランカとなっています。
輸入は、インドからの輸入が59.2%、スリランカからが38.1%と高い数字になっています。


8 ブータン(GDP 21.2億ドル: [世界第163位])

主要産業 : 農業、林業、電力(水力発電)
輸出 : 電力、鉄、合金、セメント
輸入 : 軽油、ガソリン、金属製品、米

国土がヒマラヤ山脈の斜面にある地理的条件と豊富な水資源を使って水力発電が盛んです。生産した電力はインドに売却されており、貴重な外貨獲得機械になっています。

1日1ドル未満で暮らす貧困層が国民のおよそ25%を占めています。

農産国であり、米の輸入も行っています。

それでも貧困問題が慢性化しているのですから、

粗悪な農業インフラを使った非効率な農業運営が蔓延っているのでしょう。

国家規模の名目GDPで見た場合、ブータンは最も経済ボリュームの小さい国となります。

ちなみに域内貿易の相手に関しては、今回参考にした大西崇子さんの論文に、ブータンだけ統計が記載されていなかったため、掲載できません。




さいごに
以上のように南アジア地域協力連合の貿易構造を観察して参りました。

見たところ、工業製品輸出の盛んなインドを除き、多くの国々で主要輸出品目は似通っていることが確認されました。
パキスタンは綿花を中心とした繊維産業が全輸出の約30%、バングラデシュは衣類製品が輸出の約80%、スリランカでも衣類製品が輸出の約40%、ネパールにおいても繊維製品とじゅうたんが輸出の約70%を占めています。

このようにSAARCの加盟国では、貿易の比較優位構造に類似性を持つ国々が多く、相互の国が抱える需要に対して補完的ではありません。

このことが全貿易に占める域内貿易の5%の伸び悩みにつながっていると考えられ、

引用した大西氏の論文では、

センシティブリストの多さ、投資の規制、輸送体制の未発達、内部の政治問題、非関税障壁などの「非関税障壁」が域
内貿易の伸び悩みの原因だとされています。

また、エネルギー資源にも乏しい。主要な産油国もインドくらいのもので、それでも世界24位程度の規模です。


近年は、中国がインド洋〜東シナ海にかけて「真珠の首飾り政策」を展開する動きを見せており、

パキスタンを始め、スリランカバングラデシュなどSAARC域内国に対して積極的な支援を行っています。

これらは、中国の経済発展に欠かせないエネルギー輸送路の安全確保のためだとされていますが、

事実上、インドを囲い込む形となり、インドは懸念を高めています。

また、SAARC諸国に対して影響力を伸ばそうと迫る動きも無視できません。

インドのモディ首相は、2017年5月に北京で開かれた「一帯一路」サミットへの招待を欠席したばかりか

「一帯一路」プロジェクトの問題点を指摘する公式声明を発表しています。

つまり、ロシア、南米諸国、アフリカを味方につけ、米国覇権に挑む中国に対して、インドは明確に拒絶しているわけです。

近年インドが日米と協力関係を確認する機会が多いのも、中国の拡大に対する懸念を共有しているためです。



個人的には、中国が世界最大の工業国とは未だに思えず、日本を始めとする先進諸国の工業力を、自分が作ったもののような態度で誇示しているだけに見えます

その意味でアジア最大の工業力は日本の中にあるといえるでしょう。

昨今、北朝鮮問題に見られるように欧米勢力と反米勢力の闘争が日に日にボルテージを上げていますが、

過言すれば日本を味方につけた方が今後の世界情勢を握るでしょう。

いっそのこと、印露もタジキスタンアフガニスタンで接するのだから、反中で手を結んではどうかと提案したいところです。

またインドは石油資源に乏しく、インドも外資規制の撤廃によりロシアが求める工業力を増大させる方針です。

世界屈指の工業力を持つ日本ともインドとの友好関係を通じてアプローチできるでしょう。

このようにお互いの需要に対して相補的なのだから、連携してはどうでしょうか。

そうすれば日本もいさぎよく中国からインドへシフトできるでしょう。