Ossan's Oblige ~オッサンズ・オブリージュ~

文化とは次世代に向けた記録であり、愛の集積物である。

電気自動車の45%を占める中国の攻勢の裏にあるもの【したたかな日本】

1. 電気自動車化への対応は、国家の資源状況が決める

f:id:Illuminated29:20190714083612j:plain

中国やインド、ユーロ圏の国々が電気自動車の普及に積極的なのは、2つの理由が考えられます。

非産油国であること
自然エネルギー産業に欠かせない資源を持つこと

中国、インド、ユーロ圏の国々は、産油国ではありません。
これらの国々は、原油の国内需要を自国だけで賄えないため、外国からの輸入によって補っています。

つまり、ガソリン車が主流であるうちは、動力である原油を輸入し続けなければなりません。
しかし、自然エネルギーを利用できるようになれば、輸入の負担を減らすことができます。

もう1つの理由が、自然エネルギーに関わる産業資源を持つことです。

現在、最も積極的に電気自動車の導入を進めている国が中国です。

"Global EV Outlook 2019"によると、世界全体の電気自動車に占める中国車の割合は約45%。

f:id:Illuminated29:20190707105429p:plain
濃緑が中国
(参考 : https://www.iea.org/gevo2019/



中国が電気自動車の導入に積極的なのは、世界最大の自動車市場を持つことや、国内の環境汚染の解決のためといった理由が考えられます。

しかし、それだけではありません。

この問題は、中国が電気自動車の製造に不可欠なある原料の産出国であることと切り離せません。

それは、電気自動車のバッテリーに使われる「リチウムイオン電池」に他なりません。


このリチウムイオン電池は、次の理由から、スマートフォンやラップトップのバッテリーとして定着している電池です。

エネルギー密度が高く、高出力


今後、電気自動車が普及した場合、リチウムイオン電池の需要が増加します。
リチウムの産出国である、南米のチリ、中国やアルゼンチンといった国々が経済的恩恵を受けると予測されています。

f:id:Illuminated29:20190707105611p:plain
http://resource.ashigaru.jpより

一方、アメリカのトランプ大統領は自然エネルギーの活用に関して、「地球温暖化などでっちあげ」という発言を残しています。

この発言からも、電気自動車の導入を進めているとはいえ、(アメリカ国内の電気自動車台数は世界の約22%)アメリカは上記の国々と比べると、やや渋々感が否めません。

アメリカは原油輸出国であり、自動車のエンジン需要が消えてしまうと、これまで得ていたエネルギー収益が得られなくなるためだと考えられます。

自然エネルギー利用の浸透が、自国経済にとって必ずしもプラスでないのがアメリカ経済なのです。

2. リチウムイオン電池に日本から強力なライバルが出現

f:id:Illuminated29:20190714084002j:plain
https://periodictable.com/Elements/003/index.htmlより

電気自動車普及の大きなボトルネックは、充電時間の長さです。

電気自動車の充電に要する時間は膨大です。

例えば、新型の日産リーフの場合、80%充電に要する時間は高速充電で40分。
多忙な現代社会で、車の充電のためにわざわざ40分も時間を削られるのは、全く実用的でありません。

しかし2017年の7月、日本のトヨタから業界のブレイクスルーを起こしかねない研究が発表されました。

それは、現行のリチウムイオン電池の代替を狙う、新型バッテリーの開発計画です。

この「全個体電池」の画期的な点は、電解質に個体を用いる点です。

電気自動車の抱える諸問題は、液体の電解質を用いるバッテリーのリチウムイオン電池に由来しました。

この改良により現行の様々な問題の解消が見込まれます。

低音・高温に弱いため大電流を流せない
電解質の液体が極端な低温・高温に晒されると、バッテリーの寿命が縮む


この問題は、電解質が液体であることによる限界点です。
そこで、電解質を個体に切り替えることで、次のようなブレイクスルーを見込めるようになります。

1. 大量の電流を流せるようになる充電時間の短縮
2. 温度による制約がないバッテリー寿命の縮みが緩やか


大量の電流を流せるようになる=充電時間の短縮

個体の電解質を用いることで、充電時間の短縮を実現することが期待できます。

これまでの液体の電解液は、揮発性のため高温に弱く、大量の電流を流すことは忌避されてきました。
これが、充電速度の向上に対する一種の限界点を形成していました。

しかし、個体の電解質なら、いくら電流を流しても電解質が気化する恐れはありません。
したがって、大電流を使った高入力(高速充電)高出力(高エネルギー出力)が可能になります。

「全個体電池」の性能は、トヨタ自動車によると、エネルギー密度はリチウムイオン電池の2倍、出力は3倍以上と報告されています。

この電池をEVに搭載すれば、リチウムイオン電池で数十分はかかる充電を、3分に短縮できる可能性が開けます。


バッテリーの寿命が縮まない

従来型のリチウムイオン電池は、バッテリー劣化が避けられません。

この劣化を引き起こす原因の1つが、電極の劣化です。

これは、電解液中の成分と負極の炭素成分(黒鉛)の化学反応によって生じるSEI(固体電解質相)という皮膜の形成に由来しています。

電解液中には、EC(エチレンカーボネート)という物質が含まれており、これが負極の炭素系成分と化学反応を起こし、負極表面に薄い皮膜を形成してしまうのです。

さらに、アレニウスの式(化学反応の速度を予測する公式)に従って、化学反応は高温状態で促進されやすくなります。

これが、バッテリーが高温状態を苦手とする理由でもあります。

しかし、全固体電池と並行して電極の改良も進められており、炭素系の代わりに、シリコンなどを用いた新しい電極の開発も進められています。

先述の通り、バッテリーの劣化は、溶液中のECと負極の炭素系成分の化学反応によって生じます。

炭素系ではない素材の負極を用いることで、約50%のバッテリー容量の増大が見込めます。

なお、試作電池は、従来のリチウムイオン電池よりも40%高いバッテリー容量を示しました。

バッテリー劣化の問題は、電気自動車の売却代金の値引き要因となり、ユーザーの不満の種になりがちでした。
しかし、全固体電池の登場により、ユーザーはバッテリー劣化を抑えながら電気自動車を利用できるようになります。

バッテリー劣化がなければ、売却価格と購入価格に大きな差はつきません。

ユーザーも安心して購入できるようになり、普及を後押しするでしょう。


3. 全固体電池の実装は2022年以降の未来

f:id:Illuminated29:20190714084216j:plain

とはいえ、全固体電池はいまだ研究段階であり、実用化は早くとも2022年頃と試算されています。
電気自動車への搭載は2030年頃と試算され、市場に出回るまで長い時間を要します。
そもそも計画段階であり、成功するかも確かではありません。



4. ナトリウムやマグネシウムを使った電極の開発

また、リチウムではなく海水から採取できるナトリウムを使った電解質の開発も、日本の手で進められています。
これが実用化した暁には、豊富なリチウム埋蔵量を背景に市場の寡占を狙う中国の野望を阻止することも可能でしょう。

トヨタは、ガソリン車の終焉とともに衰退が懸念される企業ですが、時代の移り変わりを、ただ黙って見ているだけではないようです。

業界再編を巡る動向に注視していきたいものです。